OUR MESSAGE


梅沢紳哉と木村恵美から皆さんへ

2019年3月24日(日)をもって、僕、梅沢紳哉によるHAIR SALON JEFFはいったん終了となりました。7年間、ほんとうにありがとうございました。今後、僕はフィンランド・ヘルシンキで「JEFF ヘルシンキ店」での活動をスタートします。

そして4月3日(水)からは、先日このウェブ上でもお知らせした木村恵美(きむら めぐみ)さんが「JEFF 神宮前店」のサロンに立ってくれます。

でも僕自身、まだまだ皆さんにお伝えしきれていない事柄や思いがあります。また、木村さんのことも、サロンで僕が直接皆さんにご紹介できず、申し訳ない気持ちでいます。そこでひとつのけじめとして、インタビューというかたちで、僕と木村さんから皆さんへのメッセージをお伝えすることにしました(インタビューしてくれたライターの菅原裕佳子さんはJEFFのお客さんでもあります)。今回はその前編をお届けします。

Interview & Text : Yukako Sugawara

――2月に公開されたNoritakeさんとの対談、読ませていただきました。後半の記事のなかで、「ヘルシンキに惹かれて、ガイドの歌野嘉子さんとうまが合った」とありますが、ずばり聞くと、歌野さんから「お店を出しませんか?」と提案があったんですか? それとも梅沢さんが「住みたいな」と思ったのが先だったんでしょうか?

梅沢

どっちだろう…。けっこう「お互い」っていう感じもあるのかなあ。僕が「住みたい」とも、「ヘルシンキで切りたい」とも思ってた、そんなときに歌野さんに誘いを受けて、「よっしゃ!」っていう感じだったかな(笑)。


――木村さんは2017年9月に初めてヘルシンキに行かれたんですよね。そのときは梅沢さんは3回目ぐらいですか?

梅沢

1回目は2016年9月の休暇を兼ねたサロン見学、2回目は翌年の春、歌野さんの事務所をお借りしてシャンプー台なしで切る、ということを試験的にやってみました。そこで予約が取りきれなくなったので、「仲間を連れてきてもいいですか?」と歌野さんに提案して、その日の帰りに次回の募集をインスタで呼びかけて。そしたら木村さんがいちばんに「参加したいです」と言ってくれたんです。

そういう人が3、4人いたので、ひとりずつ会ったんですよ。どのぐらいの本気度なのかなっていうのを見たくて。そしたらもう木村さんは本気だった。

――木村さんは梅沢さんをご存じだったんですか?

木村 

その少し前に、ある会合でお会いしたことがあって、1度お店を見せていただいたんです。

――そうだったんですね。

木村

梅沢さんがヘルシンキに行ったお話を聞く機会もありました。じつは私は8年前、ある本を読んでフィンランドを知って以来、とても憧れて。いちばん行きたい国だったんです。

その後、梅沢さんがヘルシンキでポップアップサロンを開いて「次回はスタッフを連れて行く約束をしてきた」ということをインスタに投稿していたので、「私、行きたいです」と手を挙げたんです。

――梅沢さん的にはどんな気持ちで募集したんですか。まだ移住の話は出ていなかったんですよね。

梅沢

全然出てなくて。ただ、雇用関係がないかたちでのパートナーシップみたいなものは、やってみたいなと思ってたんです。木村さんの仕事も見てみたいし。来てくれる人はみんな実力があって個々にひとりでちゃんと立ってる、そういう人たちとチームで何かできたら、という思いでした。あとは「経験させてあげたい」というのもありましたね。

――後進を育てる、みたいな?

梅沢

育てるっていう、偉そうなアレもないんだけども、せっかくヘルシンキにご縁ができたから、それを若い人に体験させてあげたいなっていう。「僕のこと、使ってよ」っていう感じで。

――木村さんはいま(註:取材は2月下旬)はSENSE Hairの店長さんだそうですね。お店をやりながらヘルシンキに行くというのは大変だったんじゃないですか。

木村

その期間を夏休みということにして行かせてもらいました。

――ヘルシンキに行くことや、違う美容師さんのお世話になるということは、お店には伝えていたんですか?

木村

はい、言ってました。

――そのときは、もしかして梅沢さんの近くで仕事したいというよりは、ヘルシンキに行きたい気持ちが強かったんでしょうか?

木村

ヘルシンキに行きたいっていう気持ちは強かったんですけど、梅沢さんが人を募集してたから行った、という感じです。梅沢さんじゃなかったから行ってないと思います。

――どうして梅沢さんじゃなかったら行ってないんですか?

木村

梅沢さんの作ったヘアスタイルを『HAIR DESIGN BOOK for men』などで見て、ほんとうにカットが上手なので、いろいろ学ばせてもらいたいと思ったんです。なので行き先がヘルシンキじゃなかったとしても、ついて行ったと思います。

ヘルシンキでのポップアップサロンの初日は歌野さんのオフィスで一緒にカットしたんですが、違和感もなく、すごく自然体なサロンになってた感じがします。


――スムーズに仕事ができたんですね。それで、そうやってポップアップサロンをやるうちに歌野さんから梅沢さんに「ヘルシンキにお店を出しませんか」という話があったと。

梅沢

そうですね。ヘルシンキでも、顔見知りになったお客さんもいたんですよ。

――もう何回も来てる方がいたんですね。

梅沢

そうなんです。それでお客さんと話していて「自分のやりたいことや夢をもって海外で生活してる人がいるんだ」っていうことにすごく感動して。

ある日本人のお客さんで、入りたかったヘルシンキの会社に実際に入社された方がいて、「夢を叶えたんですね?」と言ったら、「叶えました!」って返ってきて「すごいな!」と。僕はまだやりたいことができてないな、と思いました。

夢を持って成功してる人たちを後ろから支える、じゃないけど、そういう仕事もできるかな、とも思ったり。だから「ヘルシンキでできることがあるんじゃないかな」という気持ちがでてきたんです。

――ヘルシンキでの出店が決まったとき、JEFFは閉店するのか、最初はどう思ってたんですか?

梅沢

閉店するしかないと思ってました。それが潔いと。でも木村さんが「ここでやりたいです」って言ってくれて。

――木村さんは当時もSENSE Hairの店長さんですよね。「辞めよう」と思ったんですか。

木村

思いました。私が2度目にヘルシンキに参加させていただく前のミーティングで、梅沢さんが「ヘルシンキにお店を出そうと思う」という話をされたんですよ。「JEFFはどうするんですか?」と聞いたら「使う人がいなかったら閉めるかな」と言ったので、「だったら私、やりたいです」って。

梅沢

でも最初は居抜きで、「JEFFじゃなくて自分のブランドを持ったほうがいいんじゃない?」 とか、そういう話もあったんです。でも木村さんは「JEFFとしてやりたい」と言ってくれたんですね。

それで、JEFFとしてやれるっていうメリットが彼女にはあって、神宮前とヘルシンキに店があるっていうことでの価値もできて、ブランディングできるんじゃないかな、それがお互いにとっていいな、と思えてきたんです。

――そうだったんですね! 逆だと思ってましてた。梅沢さんが誘ったのだとばかり…。

梅沢

いつも言うんだけど、僕が引き抜いた空気が出ちゃうなと思って。僕も以前、店を経営していて、ほかの店に引き抜かれて辞めたスタッフがいるから、オーナーの気持ちが痛いほどわかるんです。だから、オーナーにもご挨拶しておきたいなっていう気持ちはずっとあったんです。

――そうですね。「僕が誘ったんじゃない」って(笑)。

梅沢

で、SENSE hairはこの近所なので、1度伺ったんですけど、オーナーが仕事中で会えなくて。でも、やっと今度お会いできることになったんです。

――木村さんはなぜJEFFを引き継ごうと思ったんですか?

木村

そうですね…。梅沢さんはいつも「お客さんにとって何がいいか」を考えている方です。そして技術ももちろんですが、働く姿勢でも尊敬できる部分がたくさんあって、自分の理想像みたいな美容師だなと思って。

自分がそうなるには梅沢さんに近づく、ではないですけど、梅沢さんがいた環境に身をおくのがいちばんかなと思って。


――梅沢さんのマインドを引き継ぐためにJEFFに入りたいという感じなんですね。

木村

はい。

――JEFFに移ることが決まって、オーナーさんに話したんですよね? 引き留められなかったですか。

木村

オーナーには、私が“やりたいことは、やらないと気が済まないタイプ”と思われているようで、最終的には「どうしてもやりたいんだったら、応援するよ」と言ってくれました。

――というと、やっぱり最初は反対されたんですか。

木村

そうですね、最初は「うちに残る方法はないのか?」と言われました。私はいつも「シャンプーから最後まで1人でやりたい」と言ってたので、「それができる店が見つかったから辞めるんだ」ぐらいに思われていた気がします。

でも私は1対1でお客さんと向き合って、自分の思いがお客様に伝わる環境で、梅沢さんのような働き方をしたかったんです。

何よりJEFFを引き継ぐことで、これからも梅沢さんから学びたいと思ったんです。

――シャンプーから最後までやりたいっていうポリシーもあったんですね。JEFFは木村さんの理想のスタイルだし、梅沢さんのマインドも尊敬しているし、もう行くしかないと。

木村

そう私は思ってました。オーナーは心配もしてくれてたと思うんですけど、最後は「困ったことがあったら頼ってね」って言ってくれて。

――そういうオーナーさんって、美容業界的にはどうなんですか。

梅沢

いや、もう器の大きいオーナーですよね。

――木村さんのいまのお客さんはどうなるんでしょうね…それは記事には書かないほうが?

木村

オーナーは「お客さんにもお知らせして、次のお店にも来てもらえるようにしてね」と言ってくれてます。「お客さんを(JEFFに)連れていくなよ」みたいなことは言わなくて、「ちゃんとアナウンスしな~」って。「それぐらいしか自分は協力してあげられないから」って。

――すごい! 自分のお店のお客さんはその分、減っちゃうのに。

木村

もう、感謝しかないです。

梅沢

いや、すごいと思いますよ。

――ところでインタビュー前、木村さんがご家族への感謝の気持ちを伝えたい、とおっしゃってましたね。旦那さんに「お店を継ぐ」と伝えたときはどんな反応でしたか。

木村

旦那さんが、「やったほうがいいでしょう!」って背中を押してくれたというか。私もやろうと決めたものの、大丈夫かな?とか心配になる気持ちもあって。ふだんから、そういうときに必ず旦那さんに話すんです。そしたら今回、「やらない理由がないでしょ」と。「絶対やったほうがいいでしょ」と言ってくれたので、「だよね!」って(笑)。なので、そこが感謝ですね。

――いまの木村さんのお客さんにも伝えたいことはありますか。

木村

お客さんに育てていただいている部分もすごくあるので、また新しい場所に来てもらえたらうれしいですし、これからもずっと担当させてもらいたいな、という気持ちです。

――梅沢さんはどうですか、木村さんへの思いというか。

梅沢

木村さんにとって、いいようにしてあげたいっていう、それしかないですよね。後輩っていうよりは対等に、ちょっと先輩だからリードしたり危ない橋を渡るときは支えてあげたりはするけれども、まあ、でも基本は自分で立ってる人だから。そんな感じでいっしょにやっていけたらと思ってます。

(後編へつづく)