梅沢紳哉と木村恵美から皆さんへ
4月3日(水)、木村恵美(きむら めぐみ)さんのサロンワークによるJEFF神宮前店が、気持ちも新たにスタートしました。おかげさまで、さっそくお客さまにもご来店いただいています。ありがとうございます。
僕もいよいよ4月中にJEFFヘルシンキ店をオープンします。(おそらく)日本人として初のフィンランドのヘアサロンという挑戦に、身の引き締まる思いでいます。
前回のつづきとなるインタビューの後編では、皆さんと僕との思い出や感謝の気持ち、木村さんへのエールをこめさせていただきました。
Interview & Text : Yukako Sugawara
――「JEFFを引き継ぎたい」と言ったのは木村さんですけど、ちょっと意地悪な考え方をすると断ることもできるじゃないですか。「この人には任せたくないな」と思ったら。木村さんに託そうと思った決め手はなんだったんですか。
梅沢
いま瞬間的に思い出したのは、インスタで初めてヘルシンキに行く仲間を募ったときに、「木村さんが来る」って思ったんですよね。何の根拠もなく、直感で。そしたら連絡が来たから「やっぱりな」って(笑)。あとは、性格がさっぱりしてるんですよね。
多分34、5歳って悩む時期なんじゃないかなって。もう若い人のカルチャーにいないから、流行を売るだけのカルチャーは卒業してるんですよ。
でも仕事としては「流行ってるからそれを当てはめる」というのが出てきちゃうと思うんだけど、「流行をこえてさらに幅を広げてほしい」っていつも言ってます。いくら年齢が上のお客さんでも、流行ってるからそれをやるんじゃなくて、オーダーメイドでスタイルを作っていける美容師になってほしいなと。だからそこで、もがくときじゃないかなあ、なんて勝手に思って。
でも木村さんのよさが出なかったら意味ないし、僕をもう1人つくってもしょうがないなと思う。ただ「そこをもう少しちゃんとやったら、もっとよくなるよ」っていうことは言いたい。そこが僕の役割だと思ってます。
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―いままでの、梅沢さんとお客さんについても話を聞かせてもらえますか。JEFFのお客さんと梅沢さんの関係は、技術の提供というだけじゃなくて、精神的なつながりが深い方が多かったんじゃないかなって思います。
それを求めてお客さんも来てたんじゃないかなと思うんですけど、梅沢さん自身もお客さんの影響で人生観が変わったことはありますか。
梅沢
やっぱり皆さん悩んでいて、いろんなことに。ここで1対1だと話してくれるんですよね。実際そうなると絆みたいなものが生まれて、なんなら“身内より近い身内”みたいになる。で、ほどほど距離があるから、2~3か月に1回来て、そうすると話しやすくなるし、話して置いてく、みたいな。
言葉に出すことでここに置いていって、すっきりして帰ってくれるみたいなところがあったんじゃないでしょうか。
一方では、病気で亡くなったお客さんもいました。この(店内に飾ってある)植物はその方がオープンのときにくださって、もう7年たつんだけど、でもその方は亡くなっちゃって。親しくさせてもらっていた方なんですが…。
そういうお客さんができなかったことっていっぱいあるような気がして。いろいろ考えさせられました。もっと丁寧に生きなきゃとか、人生はやりたいことしかやっちゃいけないんだろうな、とか。
――そうだったんですね。
梅沢
そういう意味ではお客さんと僕との人間関係を木村さんに引き継ぐっていうのが無理な話だっていうのは前提としてありますね。いま、木村さんに変わったら来ないだろうな、と感じるお客さんもいれば、「お客さんが僕を卒業する」パターンもあって。
でも「木村さんにお願いしたい」ってスムーズにいく人もいます。あと1か月ぐらいで僕のJEFFは終わるけれども、いまの時点でまあまあ入ってます。
――あ、もうすでに4月以降の予約が?
梅沢
はい。お客さんは、習慣で「じゃ、次はいついつ予約する」って、予約を取るのがいつもの流れになってるので。「次はもう木村さんです」って詳しく説明すると、「ほかに行っても初めてだから1回試してみようかな」って。
――たしかにほかに行っても初めてですね。
梅沢
そうそう。で、試してもらうのはもちろんうれしいですが、僕はもう「またここに来て」とは言ってないです。そういうのは自然なほうがいいと思って。あとは「ほかの美容師さんを紹介して」という方もいるので、そのときは「このお客さんに誰が合うかな」って考えて、合いそうな友人や後輩の美容師を紹介しています。それがお客さんに僕ができる最後のことかなと。
――先日、私が梅沢さんから聞いた言葉で、お客さんに対して「きょう○○さんが来る、楽しみだな」って毎回思うっていう、そこのところが象徴的だなと思って。ほんとうにひとりひとりを考えてくださってますよね。
梅沢
JEFFになってからは、ひとりひとりのお客さんとの距離がより近くなったことで、髪も心もすっきりして帰ってくれたらいいなって思ってました。ちょっと大げさだけど、パワースポットみたいな場所になったらいいなと思って仕事してましたね。
やっぱり「話す」ってすっきりしますよね。大事なことだから、さらに重要視したいと思ってます。
――梅沢さんはそこに徳があるというか。梅沢さんの価値だなと思いますね。
それにヘアスタイルの部分でも、『HAIR DESIGN BOOK for men』を出したり、グレイヘアにしても、グレイヘアっていまでこそ話題になってるけど、その言葉が出る前からもう梅沢さんは「白髪を活かしたヘアスタイル」を提案していて、「ひとりひとりが美しく年を重ねる」ということをすごく考えてたんじゃないかなって思うんですよね。
梅沢
そうですね。やっぱりサロンワークがリアルだから、それが本になるのは自然なことだったし、何か仕掛けようとか思ったわけでもなくて、まあ、たまたまチャンスとかきっかけがそこにあったところに、うまく乗れたってことなんだろうと思います。「オーダーメイドでひとりひとり作っていく」っていうところが、いい形でそういうふうになっていったんだろうなと。
――いま2月ですけど、どうですか、残りあと1か月になって、気持ち的な部分は。
梅沢
すごく複雑で、実際は。日本にまったく未練がなくて、圧倒的にヘルシンキに行きたいかっていうと、そこは何ミリ、ちょっとぐらいヘルシンキが勝ってる感じの、圧倒的ではない感じがあって。でもそれは、手放していくっていうか、卒業していくみたいなことをすることによって、また新しい未来が開けるんじゃないかなっていう気もあるから、ちょっとワクワクはしてるんです。
だけど、こういうインタビューでポジティブなことを語っても、この先は全然ちがう現実があるかもしれないから、そういう不安はあります。
――未練はないわけじゃないんだけど、でもここは自分のいる場所ではないんだなっていう感じもありますか。次の世界、ステップへ進みたい、というか。
梅沢
それも少しありますね。年齢もあるかもしれない。ヘルシンキでは年齢関係なく、おじいちゃんが髪にハイライトを入れているサロンもあったから。
――もしヘルシンキに行かなかったとしても、いずれ違和感を感じるようになってたかもしれないと?
梅沢
なってたかもしれませんね。ひと昔前だったら2店舗目を出そうとか、仲間を募って大きくしようとか、業界のセミナーや新商品開発をやるとか、そういう仕事もあったかもしれないんだけど、そういうのは全然興味を持てなかったから。
僕はプレイヤーでいれればいいなと思ってるから、「日本でいいじゃん」ていう感じもありつつ、海外で英語とフィンランド語をしゃべりながら、もうひとつステージアップしたい。いまは「現状維持」になってる感じで。何かの目標に向かってる感じじゃないんです。
いったん1年先まで予約が埋まったことで、「理想のサロンができあがったんじゃないかな」と思ったときもありました。「1年はいっぱいにしよう」と目標を定めていたので。そして実際に目標が達成されたら、そこからの景色がちょっと見えたというか。
――梅沢さんのヘルシンキ行きは、よかったというか必然なのかもしれないですね。
梅沢
日本のお客さんには迷惑をかけてしまうし、なんて言っていいかわからないけども、挑戦させてください、という気持ちです。
最近、「時間は命」なんだって強く感じる。そういうのが腑に落ちる年齢になっちゃったんですよね。だからお金を使っても時間が大事ならタクシーに乗るし、逆にここは歩く必要性があれば時間かけても歩くし。
お金を使うポイントも変わってきますよね。そこはお客さんに教えてもらってるところがありますね。
――最後にお客さんにメッセージをお願いします。
梅沢
全部がメッセージですけど、希望としては、この年齢で僕がつくったサロンを飛び出して、また振りだしに戻るような挑戦をしたっていうことが、誰かの力になったらいいな、と思います。
――木村さんはJEFFのお客さんに何かメッセージはありますか。
木村
皆さん、梅沢さんとの歴史のある方たちです。そのなかで、いま私を予約してくださっている方がいらっしゃることがすごくうれしいです。梅沢さんに至らない部分もあるかと思いますが、がんばりますのでよろしくお願いします。
梅沢
僕が持ってないものを持ってるから、そこを伸ばせばいいんじゃないかなって。このインタビューでお客さんが木村さんを少しでも知ってくれて、なだらかに僕が卒業して木村さんが入学してくるみたいな、それがスムーズだったらいいなと思います。
で、「ここだけは3年間守って」って伝えてることがあって。それはしっかり教えてます。
――それはなんですか。
梅沢
ここで公にするのも…(笑)。まあ、いろいろ当たり前のことなんだけど、意識して守ってると、今度はそれがベースになるから、ベースになったら気づいてないことにもさらに気づいていけるかなっていうね。木村さんがもっと若かったら僕は監視してなきゃいけないけど、もう言えばわかるのでね。
――いいタイミングでいい方が来てくれたんですね。
梅沢
そうそう。僕も長年やってきたうえでの彼女との出会いだから。いまの自分じゃなかったら彼女のよさもうまく見られなかったかもしれないしね。
――ヘルシンキに行くことも、木村さんとの出会いも、ほんとうにベストなタイミングだったのかもしれないですね。
梅沢
僕が引き寄せたのかもしれませんね。そんな気がします(笑)。
END