Talk with Noritake 1

イラストレーターNoritake×梅沢紳哉対談(前編)

渋谷・神宮前にプライベートサロン「JEFF」を開店して6年。スタイリストの梅沢紳哉さんは、2019年3月で神宮前のサロンでの営業を一旦終了。北欧フィンランドのヘルシンキで新しい場所をオープンする予定だ。何故フィンランド? 神宮前の店はどうなるの? で、これからどうするの? JEFFのロゴデザインを手がけ、店のイメージを一緒に構築してきたイラストレーターのNoritakeさんを交え、この6年を振り返り、今後のJEFFについて語っていただいた。

Interview & Text : Keiko Kamijo

──まずは、JEFFのウェブサイトに掲載するこの対談をすることになった経緯からお話いただいてもいいですか?

梅沢

サロンでは年に2回お客様にDMを出していて、それをNoritakeさんと一緒に作っているんですが、僕がフィンランドに行くということを伝える文面を書いていた時にNoritakeさんから「DMだけじゃあ足りない」と言われて。webに残しておこうという話になったんです。

Noritake

僕はロゴデザインやDMのお手伝いをしていますが、1ヶ月半に1回髪の毛を切ってもらっているお客さんでもあって。もちろん、ご本人の口からはフィンランドに行ってきて楽しかった話や、現地で髪の毛を切った話も聞いているんですが、実際にいなくなったらやっぱり困る。ちゃんと何故フィンランドに行くのかという理由も含めて、自分も聞いておきたいし、お客さんに伝えるために文章として残しておいた方がいいと思ったんです。また、JEFFの仕事は個人的にも思い入れが強いので、2人の仕事としてのひと区切りという意味でも話をしておきたいなと。



梅沢

ロゴのおかっぱの女の子の友だちにしようというので、Noritakeさんに毎回新しいイラストを描いてもらっていました。JEFFが終わる時には、おかっぱの女の子を正面向きにしようって話もあったんですけど、結局僕のシルエットで神宮前店のDMはひと区切りつけることになりました。

──2人の出会いを教えていただいてもいいですか? 梅沢さんはNoritakeさんの絵をご存知だった?

梅沢

前のサロンにいたときにDMの印刷をパピエラボ(編註:「PAPIER LABO.」神宮前にある紙にまつわるプロダクトを扱うショップ。活版印刷など印刷物のデザイン制作も手がける)にお願いしていたんです。店でNoritakeさんのアイテムを扱っているのでよく見ていたし、共通の知り合いもいたので気になっていたんです。

Noritake

もうずいぶん前のことですよね?

梅沢

震災後ですよね。前のサロンは2人で経営していたんですが、震災後という時期もあったし、自分のなかでいっぱいいっぱいになっていた時期でもあって。一回幕を下ろしたい気持ちがありました。そんな時に、Noritakeさんが描いていた一切無駄のない絵を見て「これだ!」って思ったんです。でも、本人のことも知らないし、どうやって発注したらいいかもわからなくて、パピエラボの江藤(公昭)さんに相談したら連絡先を教えてくれて。さっそくメールしたら、すぐに会いましょうっていう話になって。

Noritake

そうでしたっけ?

梅沢

忘れちゃったの(笑)? 「じゃあ、まずは髪の毛を切りに行きます」って、前のお店に来てくれて。まだ、そんなに大きな仕事をしていた時期じゃなかったのもあったと思うけど、もうそこからデザインが始まっているんだな、僕の仕事をちゃんと見て判断してくれるんだって思いました。その後、カフェで何時間もお互いの仕事の話をして。ロゴをお願いすることになったんです。

──その時はどこまで決まっていたんですか? お店の名前とか?

梅沢

「JEFF」っていう店の名前と、ボブの女の子の絵をロゴに使いたいというのはありました。ボブって時代が変わっても常にあるスタイルだし。絵ができ上がってきた時、後ろ向いてるんだと(笑)。最初は正直びっくりしましたね。

Noritake

「JEFF」って名前がイヤだなって思ってたんですが。その話しましたよね?

梅沢

うん、してたね(笑)。なんでJEFFにしたかというと、ひとつはあんまり格好つけた名前にしたくなかったんですよ。

Noritake

だから人の名前に?

梅沢

ジェフって日本語で言ったらタロウとかヒロシみたいな名前だからいいかなと思って。あとは、「JEFF」の文字を書いてみた時に、見た目がキレイと思ったのも大きい。でも、JEFFという名前なのにロゴがおかっぱの女の子でいいのかな? とは思いました。

Noritake

気にはなってましたね。僕はそんなに気にならなかったけど。

梅沢

最終的にはNoritakeさんが決めたなら、それでいこうって思ってました。最初の段階でずいぶん話し合ったし、信頼感はありましたね。

Noritake

当時、あそこまで削ぎ落とした絵って、他の仕事では許してもらえなかったんです。自分の中では「JEFF」のロゴのようなことがやりたかったんだけど、実現できる場所はまったくと言っていいほどなかった。

──Noritakeさんの絵も結構変遷があって。2012年頃かな? もう当時は自分っでプロダクトを作って販売したりしてたのでは?

Noritake

少しずつ始めていたくらいの時期ですね。でも、イラストレーターとしての仕事ではやっぱり削ぎ落とすのには限界があって、説明的なイラストになってしまったりして、うまくいかない仕事も多くあったように思います。梅沢さんとの仕事は、仕事なんだけどすごく個人的なものでもあるから、ここでなら僕の一番やりたいスタイルに挑戦させてもらえるかなと思ったんです。

──とはいえ、梅沢さんの気分にも合っていたんですよね? お互いの利害が一致したというか。

Noritake

もちろん梅沢さんが嫌だっていうことはしてないから、結果的に合ってたけど、当時はもう少し欲しがっていたような気がする。

梅沢

そうかもしれません。でも、何故女の子が前を向いていないのかっていう話をした時に、後ろを向いていた方がアイコンとしては強いって言っていて。なるほどそういうことか、と。もちろんいろんな要望を話はするんですが、僕がこうしたいと主張してしまうとNoritakeさんの純度が薄まってしまうような気がして。僕も作り手なので気持ちがわかるんですよね。だから言わない。言わない方が結果よくなるというのがわかっているから。

──なるほど、そうしてお互いを高め合えるようなやりとりがあったんですね。最初にロゴを作って、そのあとは?

Noritake

全体の流れみたいなものを話し合いました。さっき欲しがるっていう話をしましたが、最初に我慢してくれっていう話をして。看板を作りたいとか、壁に絵を描いてくれとか(笑)。

梅沢

内装やる前はいろいろ妄想が膨らんでいたんです。でも、Noritakeさんに相談したら内装ができ上がってから、空間を見て絵を描くかどうか決めたいって言われて。完成後に見てもらったら、空間を邪魔しちゃうから絵は描けないって言われて。うーん、そうか、と(笑)。

Noritake

その後もいろいろ作りたがるから、たまに聞こえないふりをしています(笑)。イラストを気に入ってくれたのはうれしいんですけど、絵だけではなくて全体のことを考えてディレクションしたいのがあって、いろいろ意見を言いました。

──でも、Noritakeさんのでいろいろ作りたくなる梅沢さんの気持ちはわかる(笑)。

Noritake

今ほどグッズも多くなかったし経験もなかったから、今よりも他の人に触って欲しくないという気持ちが強かったのかもしれません。特にこのJEFFのロゴは、すごくよくできたと思っていたので、これ以上いじりたくなかった。でも、そのままで価値は生まれていると思っていて。

梅沢

もちろん。

──サロン全体のアートディレクションをしているという感じ?

Noritake

アートディレクションをしているというよりは、おせっかいをちょっとしているという感じです。それは全然仕事じゃなくて、むしろ髪を切りに行ってお金払ってるくらいですから。DMは年に2回、とにかくそれを貫いていこうというのを決めて。その後、僕のグッズをお店で売りたいって言われたので、それは普通に売っていただいている。だから、髪を切るタイミングで、次どうしますかっていう話をして、状況を逐一やりとりしている感じですね。

梅沢

日常会話がコンサルになっていて、Noritakeさんから教わることは多いですね。仕事に対する意識とか、そこまでこだわるんだっていうのが話の端々に出てくるんですよ。また、遠慮せずに本当のことを言ってくれるから、信頼していますね。

──DMのデザインもNoritakeさんが手がけているんですよね? 紙とか印刷へのこだわりは?

Noritake

これは安い印刷屋さんでやってます。JEFFの場合は、安くて、どこにでもある紙で、負担のない形で、ずーっとやり続けるのがいいと思ったんです。それは、グッズ製作の時も同じで、高い紙や変わった印刷をするから価値が高まるわけじゃない。もちろん上質な印刷が合う時にはやりますけど。

梅沢

髪の毛をつくる時もニュアンスの部分が大事なんですが、イラストも似ている部分があって。JEFFの文字にしても、よく見るとすごく細かい部分にこだわっている。「神は細部に宿る」って言うけど、まさにそうで。だから僕自身が大切にしている信念みたいなものが、Noritakeさんの絵から滲み出てくるこだわりと一緒になって出てきたらいいなと。

Noritake

僕は思ったことを子どもみたいに偉そうにいろいろ言ってしまうんですが、きちんと受け止めてくれる。梅沢さんは、心が広い優しい大人っていう感じですね。

──変に空気を読んだり、気を遣ったりしないNoritakeさんの姿勢は梅沢さんもわかっているし、そのニュアンスが合っていたということですよね。

Noritake

だって、僕ずーっとフィンランドに行かない方がいいって言ってますから(笑)。

(後編に続く)