イラストレーターNoritake×梅沢紳哉対談(後編)
渋谷・神宮前にプライベートサロン「JEFF」を開店して6年。スタイリストの梅沢紳哉さんは2019年3月で一度店を閉め、北欧フィンランドのヘルシンキで新しい場所をオープンする予定だ。何故フィンランド? 神宮前の店はどうなるの? で、これからどうするの? JEFFのロゴデザインを手がけ、店のイメージを一緒に構築してきたイラストレーターのNoritakeさんを交え、この6年を振り返り、今後のJEFFについて語っていただいた。
Interview & Text : Keiko Kamijo
──フィンランドの話が出たので、その話を聞いていきましょうか。まずは何故フィンランドだったんですか? もともと好きだったとか?
梅沢
いや、全然違うんです。一人で店を始めて、お客さんもついて、軌道に乗ってきたのはいいんですが、3ヶ月、半年先までずーっと予約が埋まってしまって、うれしい反面、苦しくなってきてしまったんです。好きなバンドのライブにも行けないし、舞台も見に行けない。もちろん毎日お客さんの髪を切るのは楽しいんですが、別のことでインプットが必要だと思って、海外旅行に行きたいと思ったんです。
──なるほど。行き先はどうしてフィンランドだったんですか?
梅沢
それも偶然で。刺激を求めてロンドンやパリ、ニューヨークっていう感じでもないし、なんとなくフィンランドっていうくらいの気持ちでした。特に思い入れがあったわけではありません。どうせ行くならヘアサロンを見てきたいなと思って、ネットで現地のガイドを探して歌野嘉子さんという方と出会ったんです。それが大きかったですね。メールで連絡を取ってやりとりをするうちに、歌野さんが日本から美容師を呼びたいって思っていたことがわかって。
──なんだか運命的ですね。呼び寄せられたとしか思えない。
梅沢
最初は休暇を兼ねたサロン見学だったんですが、その場で半年後にヘルシンキで出張サロンをやる予定を決めて帰国しました。半年後のイベントでは、おかげさまで切りきれないくらい人が集って。また、次の半年後の予定を決めて帰国して。そんな具合で繰り返して、全部で5回くらい行きまして。
Noritake
そんなに行ってたんですね。
梅沢
そうね。行くたびにお客さんが増えていって、毎回切りきれないっていう話になって。インスタで日本人の美容師を募集してみたら、結構集ってくれて。その都度何人か連れて行って手伝ってもらって。少しずつフィンランドの文化や生活、土地のエネルギーみたいなものに惹かれて、住んでもいいかもと思うようになったんです。歌野さんともうまが合って、このままヘルシンキでお店を出してみようかという話になったんです。
──そういう話って進む時には一気に進むんですよね。迷いはなかったんですか?
梅沢
もちろんありました。神宮前のお客さんと培ってきたご縁もあるので、それを手放してまでして行く必要があるのか、とすごく悩みましたね。でも、ヘルシンキって日本人の美容師が一人もいないから来て欲しいって言われた時に、それはタイミングなのかもしれないって思ったんです。もちろんヘルシンキには美容室もたくさんありますが、アジア人の髪質って現地の人とは全然違うんですよね。向こうの美容室も見に行きましたが、男性のカットは基本バリカンだけで仕上げる感じだし、日本みたいにその人の髪のクセや流れを生かして、細かいニュアンスを作るようなことはほとんどなくて。どっちの切り方がいい悪いの話じゃないんですけど。でも、自分を必要としてくれる人がこんなにたくさんいるのが純粋にうれしかったのはあります。また、先ほどお話したように、自分のライフスタイルを考え直す時期だったこともあり、それが一番大きいですかね。
Noritake
そうだったんですね。フィンランドがいいっていう話は聞いてたけど、日本人の美容師がいないなんて初めて聞きました。確かに、まだ開拓されていない文化を持つ場所に行くというのは面白そう。もちろん日本人の髪の毛を切るだけじゃなくて、今後はフィンランド人の髪の毛を切ることになるかもしれないし。
梅沢
今の時点では、全然言葉もできないわけだしね。新しいことだらけです。
Noritake
でも、日本で予約の調整をしてもう少し自分の時間を取るっていう選択肢もあったはずでは?
梅沢
週休2日にするとかね。そういうところは不器用なのかもしれない(笑)。一人で始めた頃は、とにかく一人でも多く髪の毛を切りたいっていう思いが根底にあって、数ヶ月先だったとしても切りたいっていうお客さんがいるなら、ありがたいという気持ちだった。でも、それを繰り返しているうちに、あっという間に1年、2年と時が過ぎていっちゃって……。
Noritake
梅沢さんは優しいから断れないんですよ。うーん、でもお客さんとして言わせてもらうと、やっぱり他の店で切ると調子が悪いから、すぐに次の予約を入れたくなっちゃう。僕にとっては唯一の美容室になっちゃったので、本当に困るわけですよ。きっとそういう人、多いんじゃないかなと思います。ロゴを作ったこととか人間関係を差し引いても、いい美容師さんだなって思いますよ。本当に。
梅沢
ありがとう。そう言われるとうれしいな。
──もう少し北欧に惹きつけられた理由を教えてください。北欧の方たちと話をすると、生活の仕方が全然違うことを思い知らされますよね。
梅沢
そうですね。ヘルシンキでは、ほとんどの人が夕方には仕事を切り上げて5時くらいからバーでお酒を飲んでいたり、家で食卓を囲んでいたりして、家族や友人たちと思い思いの時間を過ごしている。極端に言うと、残業なんかしようものなら、家族を大事にしていない!って怒られてしまうわけですよ。
Noritake
サンフランシスコに行った時もそうでしたね。
──日本以外はだいたいそうかもしれません。
梅沢
確かに(笑)。そういう人たちの生活を目の当たりにしてしまって。日本にいたら仕事が生きる目的になってしまうような気がしてきて。もう少しだけ自分中心で、人生を楽しんでもいいんじゃないかって思ったんです。
──フィンランドの人たちはどうでした? わりと日本人に合う気質の人が多いという話をよく聞きますが。
梅沢
肌が合う感じはしますね。基本的にシャイだし。あと、個人的には人と一緒にいるときに無言でいても大丈夫っていう雰囲気は好きですね。日本だと気まずい感じがするじゃないですか。そういうのが全然ない。
Noritake
それはいいですね。僕にも合うかもしれない。海外に行ってもすぐに帰りたくなっちゃうし、住みたいって思ったこともないけど。
梅沢
合うと思うよ。フィンランドは外国に来ているって言う気負いが全然ないし、肩ひじ張らないで生活できる感じがする。
──あとは、ご自身の年齢的なところで決心がついたという部分もあるのでは?
梅沢
それは多分にありますね。先ほども言いましたが、これまでまあまあちゃんとやってきたし、もっと自分中心でいいと思うようになりました。やっぱり苦しいのはよくない。自分を犠牲にしてしまうと、結果的にお客さんにもそれが伝わっちゃいますよね。だから、まずは自分が一番幸せじゃないとダメだってういところに辿り着きました。あと、求めるものも変わってきますよね。若い頃はいい車に乗りたいとかうまいもの食いたいっていうのがあったけど、今は違う。
Noritake
6年くらい一緒にやってきたけど、やっぱり人って変わるんだな。フィンランドに行ったら、また変わるかもしれないですね。
梅沢
でもNoritakeさんとの関係は続けていきたいと思っているので、DMは今後もお願いしたいし、グッズも売りたいなと思っていて。絵も描きに来て欲しいな。
Noritake
うーん、壁には描かなくていいかな(笑)。でも、看板の位置とかはチェックさせてください。
梅沢
もちろん(笑)。
Noritake
日本でまったくやらないわけじゃないですよね?
梅沢
やります。年に1度は期間を決めて帰ってこようと思っていて。それはウェブサイト上で告知をして予約できるように、いまシステムを整えようと思っているところです。
Noritake
じゃあ、それもやらなきゃいけないですね。
梅沢
今後の告知事項はJEFFのウェブサイトでお知らせしていこうと思うので、Noritakeさん、今後もよろしくお願いします。
今後、JEFF神宮前店は「JEFF In Helsinki」にも参加してくれた
美容師が継続していきます。
新しい神宮前店も引き続きよろしくお願いいたします。
そして、ヘルシンキ店にもぜひ遊びに来てください!
(まだできてないけど、、)